モバイルインテリジェンス『オフロード』
- Mobile intelligence “off-road” -

今日のコンピュータとセンサ技術は、高速で信頼性の高いデータ収集を完璧に行います。噴火口、溶鉱炉、原子力発電所の構内作業など、人が入ることができない環境でさえももはや問題ではありません。残念ながら、この技術には常にある不利な点が付きまとっています。モビリティの欠如、つまり移動できないということです。今日まで、計測機器を携行するためのあらゆる状況に対応可能な車両というコンセプトがなかったために、未知の領域の調査が阻まれていました。人が近づけない場所には、操縦が非常に容易で厳しい地形に対応できる車両が欠かせませんでした。たとえば、炭鉱事故、人が入れない建築現場での調査、地雷探知、あるいはこのような要求の全てをはるかに超える地球外の惑星探査などがあります。これらすべての用途には高いレベルの信頼性、多重性そして自律性が求められます。これらはすべて新型車両「シュリンプ(Shrimp)」のコンセプトの特徴となっています。


もちろん、「全地形対応」車両に対しては様々なコンセプトやデザインが存在します。ただし、それらすべての設計オプションを少し詳しく見てみると、どれも実用的な解決策に基づいていることがすぐに分かります。最初に、軌道車両、「クローラ」があります。このタイプは単純ではありますが、十分に確立された技術に基づいています。次に、「ウォーキング」と呼ばれる機械があります。このタイプは現代の制御技術によって改良され、よりよい結果を達成しています。そして最後に、最も広く使われているのが車輪付き車両です。このようなソリューションには、それぞれ長所と短所があります。
軌道車両を例に挙げると、操縦は容易で、困難な地形でもうまく動作します。また、非常に狭い空間でも方向転換が可能です。しかし、比較的大きな駆動力が必要です。また、このタイプの車両は比較的重く、シャーシ部の摩耗が激しいのが特徴です。

すべての条件において動作させるためには、走行装置は複雑で、アクティブな位置制御を必要とし、近い将来は少なくともかなり遅くなる可能性があります。
実際、起伏の多い地形よりも平坦な地形の方がはるかに高速です。車輪付き車両は操作しやすく、操縦が容易です。さらに車体が軽いため大きな駆動力は必要としません。起伏の多い地形でも大きな障害物を乗り越えることもでき、平坦な面ならより速く走行することもできます。
このような理由から、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のASL(Autonomous System Lab:自律システム研究所)は新型車両のコンセプトに車輪駆動オプションを支持することに決めました。この分野におけるこれまでの解決策は、起伏の多い地形か平坦な地形のいずれかで使用するように設計されているという欠点がありました。新型「シュリンプ・ローバー(Shrimp Rover)」の特徴は、両方の用途に対応できるように設計にされたユニバーサル・ビークルであるということです。

コンセプト

この車両は基本的に全輪駆動というコンセプトに基づいています。これは、最良の牽引力で車輪に最適な駆動力を常に車輪に伝達する唯一の方法です。単輪駆動システムの明白なプラスの「副次効果」は駆動モータの冗長性です。
地面とすべての車輪の接触を最適化するために、高度なシャーシ運動学が開発されました。あらゆる地形に対応するというコンセプトは、主として地上と車台の間のクリアランスに基づいています。つまり、ある物の上を越えて「進む」ことができるならば、それを「登る」必要はないのでは、ということです。このことにより、2つの異なる車輪のサスペンションシステムが車体に取り付けられています。
特殊な並列構造が側面の車輪に使用されています。このシステムによって、四輪駆動の中間にあるシャーシの仮想回転中心が車軸間の最適なポイントに維持されます。一方、シャーシ自体は車軸より高い位置に配置されています。障害物を乗り越える時であっても、その結果生じる車高から最適な効果を得るために、車両に前輪と後輪が備えられています。前輪が常に牽引面上で最適に誘導されるように特殊なレバー機構が採用されています。一方、後輪はアウトリガーアームを介して車体に固定されています。
機械専門用語で表現すると、前輪と後輪および2×2の側面車輪を備えた車両の特殊なデザインは、すべての車輪の接地が最適化されているため、能動的な制御は必要ない、ということになります。前輪と後輪の旋回能力により、「シュリンプ」の細小旋回半径が描く円は非常に小さく、車両の長さの範囲内に収まります。また一方、この機動性の良さに加え、「シュリンプ」は車輪つき車両が持つ主な長所を十分に発揮しています。つまり、駆動摩擦が非常に小さいために、出力されるほぼすべての駆動力を推進力に使うことができるということです。そのため、バックアップ バッテリー システムを積んで省エネルギー駆動装置を使用することもできます。

駆動ソリューション

あらゆる状況に対応可能な車両として設計された「シュリンプ」には、考えられる限りのすべての用途に対処できる駆動システムを装備することが重要でした。選ばれたシステムは、FAULHABERの製品群が持つモータ・コンセプトでした。当社のモータおよびトランスミッションは、製造者が自身のモジュラー駆動システムに組み込むためにコンピュータ上でコンポーネントを選択できるよう構築されています。「シュリンプ」に対しては、製造者は2224…SRシリーズの貴金属整流DCマイクロモータを使用しました。鉄心を持たないコアレスモータは様々な電圧を準備しています。このモータは出力4.2Wで最も低い電圧でも起動することができます。これは、太陽電池の電源または低温環境下で電圧が低下するバッテリー動作に依存する惑星探査旅行にとって極めて重要な機能です。
選ばれたモータ設計のさらにもう1つの長所は、モータ一体型の磁気式エンコーダにあります。モデルに応じて、一回転ごとに64~512パルスが生成され、モータ制御ユニットによって評価されます。
外径形状にあわせて必要トルクを得るためにはギアが必要になります。モータは遊星ギアに連結され、減速比3.71:1~1526:1およびトルク0.5Nmで最適駆動に適合するように広い帯域幅を提供します。
各車輪がそれぞれの駆動データを自身の検相器を通じて制御システムに報告するため、個々の車輪からのトラクションとスリップデータに従って車両の全体の駆動を常に最適に調整することができます。電子的な差動ロックは、その場での旋回に適切なアシストを行います。すべての駆動コンポーネントは標準の範囲から選択されているため、従来の特殊用途の駆動装置に比べて、価格面でも大きな優位性があります。

でこぼこのある地形、階段、坂を問わずすべての状況に1台で対応

高い拡張性

「シュリンプ・ローバー」の高度なコンセプトにより、階段を車輪径の2倍の高さまで上ることができます。この登坂能力は既存のすべてのコンセプトをはるかに凌駕します。この車両は、最大40°の前/側部の傾きを克服して厳しい地形で高いレベルの安定性を保ちます。
低コスト仕様の車両は、対称的にデザインされた単体のコンポーネントから成っています。このモデルを使用して観測機器を前部または後部に積み込むこともできます。このコンセプトは、採算性に大きく重点を置く場合、または損失が見込まれる場合に特に適しています。主な適用分野は農業ロボット、地雷清掃ロボット、産業用実地踏査ロボットになると思われます。
EPFLによる新型車両のコンセプトは、独創的で、純粋に機械式で、頑丈な車台を基本にしています。このコンセプトはFAULHABERグループが提供する低コストの標準部品を使用することで推進され、従来のコンポーネントによってコントロールされます。それにもかかわらず、優れた信頼性を誇り、高度な宇宙旅行と地上での作業の両方の用途に適しているといえます。障害物に遭遇した時の前進動作における高い効率性と並外れた登坂能力は、あらゆる地形で利用できる万能のソリューションです。